最高裁判所第三小法廷 昭和42年(オ)689号 判決 1968年10月08日
上告人
峠田彦太郎
代理人
古田進
被上告人
吉中清
ほか一名
代理人
宮本誉志男
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人代理人古田進の上告理由第一点について。
所論は、その実質は自動車損害賠償保障法二条にいう「運行」についての原審の解釈、適用の誤りを主張するものであるところ、右にいう運行の定義として定められた「当該装置」とは、エンジン装置、すなわち原動機装置に重点をおくものではあるが、必ずしも右装置にのみ限定する趣旨ではなく、ハンドル装置、ブレーキ装置などの走行装置もこれに含まれると解すべきであり、したがつて本件の如くエンジンの故障によりロープで他の自動車に牽引されて走行している自動車も、当該自動車のハンドル操作により、あるいはフットブレーキまたはハンドブレーキ操作により、その操縦の自由を有するときにこれらの装置を操作しながら走行している場合には、右故障自動車自体を当該装置の用い方にしたがい用いた場合にあたり、右自動車の走行は、右法条にいう運行にあたると解すべきであるから、これと同旨の原審の判断は、正当として肯認することができる。したがつて、原判決には所論の違法はなく、論旨は理由がない。
同第二点について。
自動車損害賠償保障法三条は、自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命または身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる旨を定めているところ、右にいう「運行によつて」とは運行と被害との間に因果関係があることを要するものと解すべきである。原審が確定する事実によれば、被害者昭二は、エンジン故障のため他の自動車に牽引されながら訴外田中新吾が操縦していた本件自動車(貨物自動三輪車)後部荷台から飛び降りたため頭部を強打し、頭蓋底骨折、顔面挫創等の重傷を受け、その結果、翌日死亡するに至つたというのであるから、右の事実関係に照らせば、本件自動車の運行と昭二の死亡との間に因果関係があるものというべきであり、したがつて、右自動車の運行によつて昭二の生命が害されたものであるから、これと同旨の原審の判断は正当である。それ故、論旨は理由がない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条にしたがい、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)